厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 山口に帰還しても、生き恥をさらすだけような気がした。


 遠征を反対していた、御屋形様のお気に入りの右筆・相良はきっと、やつれ果てた私を見て、鬼の首を取ったように勝ち誇ることだろう……。


 「殿、お食事の時間でございます」


 食事担当の兵士が、私に食事を運んできた。


 「こんなにたくさん。お前たちはちゃんと食べているのか」


 「我々は……。まずは殿が先でございます」


 「気遣いは無用だ。お前の食事と取り替えろ」


 「何を申されます、こちらは殿のためにしつらえたもの」


 私は兵士と、無理矢理食事を交換した。


 彼らは私に無理して贅沢な食事を用意し、自分たちは魚のはらわたのみで空腹を満たそうとしていたのだ。


 「殿!」


 魚のはらわたを、一気に頬張った。


 「……今回の撤退は、まさに私の失策他ならぬ。もうこのような悔しい思いはしたくない。それをこの身に刻み付けておくのだ」
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