厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 出雲から陸路で、五月下旬にようやく山口の居城・大内館に帰還することができた。


 一年四ヶ月ぶりの帰還。


 「御屋形様、お帰りなさいませ」


 留守居役(るすいやく)の者どもが御屋形様を出迎える。


 中には例の、相良の姿も。


 その表情は「そらみたことか」と言わんばかり、私の失策をなじっているように見えた。


 「晴持はまだ戻らぬのか」


 宍道湖の辺りで御屋形様の本隊と別れ、海路山口へ戻るはずだった晴持さまがまだ帰還なさっていない。


 海路のほうが早いはずなのに……。


 一抹の不安がよぎった。


 慌てて情報収集するも、帰還直後で情報が錯綜していて状況が掴めない。


 すると程なくして、信じがたき知らせが大内館へと届けられた。


 「晴持が、死んだ……?」


 伝令が告げた途端、御屋形様は言葉を失ってしまわれた。
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