厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 京の公家の血を引く土佐一条家に嫁いだ姉上の御子を、御屋形様が養子としてお迎えになられてもう幾年月。


 晴持さまは大内家の後継者として申し分のない貴公子に育ち、将来を期待されていた。


 にもかかわらず二十歳を待たずして、戦で命を散らしてしまった。


 しかも溺死。


 戦で散ることを美徳とする武士としては、非常に屈辱的な最期をお迎えになられた。


 この一件は大内家にとって、大きな痛手であった。


 御屋形様にはこの上ない悲しみであった。


 しばらくの間、一切の政務を放棄なさったほど。


 無理もない。


 せっかくここまで理想的に育て上げた後継者を、一瞬にして失ってしまわれたのだから。


 いつ家督を譲っても大丈夫なまでに成長した後継者を失うことは、当主としても、そして何より父親としても大変悲しいこと。


 御屋形様はなかなか衝撃から立ち直ることができずにいた。


 そして悲痛に沈むあまりなのか……御屋形様はいつしか私を遠ざけるようになっていた。
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