【短編】月明かりの下で、愛を囁く
プロローグ
「どうして……」
なぜあなたがその言葉を使うの?
滑稽だわ。
その言葉を使うのは私でしょ?
目の前で苦痛に顔を歪ませている彼は、小刻みに震える手を私に向かって必死に伸ばしてくる。
スローモーションのような行動に笑いが零れる。
「クスッ」
私が邪魔なら排除すればいい。
すべて記憶から末梢すればいい。
私は逃げも隠れもしないのだから。
そうでしょう?
こうやって、再びあなたの前に現れてあげたんだから。
あなたと過ごしたこの数日間、とても楽しかったわ。
私を求めるあなたを、愛を囁くあなたを、鼻で嘲笑っていたわ。
フフッ……。
「知りたい?」
あなたが今、誰と過ごしているのかを。
慰めるフリをしてあなたのそばにいたのよ。
私を利用したあなたに復讐するためにね。
彼の腹部には私が突き刺した鋭利な刃物、そして服に滲んでいく鮮血。
そうよ。
二人とも、堕ちればいいのよ。