【短編】月明かりの下で、愛を囁く
月の出る夜にさえ女の影を見ることがなくなっていたある日の夜。
コツンッ。
窓に何かが当たる音がして、ゆっくりと窓に近づいた。
水色の淡い色したカーテンに手をかけ少しだけめくってみると、あなたの部屋から私の部屋を見つめるあなたの姿があった。
何、で……?
ゆっくりと窓を開けると、あなたは私に向かって極上の笑顔を向けてきた。
「今から出てこれる?」
そんな誘いになんて乗らない。
そうは思っていても、口は勝手に動いてしまう。
「いいけど」
体は正直。
久しぶりの彼の姿に心を揺さ振られ、胸の鼓動は最高潮になる。
薄れていたはずの想いが少し、溢れそうになるのを必死に食い止める。
もう、あんな思いはしたくないでしょ?
そう自分に言い聞かせながら、私はコートを羽織ってファーのマフラーを巻いて外に出て、夜道を二人でブラブラと歩き始めた。
突然どうしたの?
……あなたの行動がまったく掴めない。
他愛のない話ばかりして。
久しぶりに幼なじみを懐かしんでいるだけ?
ぶらりと歩き回った私たちは、お互いの家の前の道路で立ち止まった。
久しぶりに楽しかった。
バイバイ。
そう言おうとした私の言葉を、あなたの言葉がいともたやすく止めてくれたわ。
「なぁ、好きなんだけど」