【短編】月明かりの下で、愛を囁く
言っている意味が分からない。
突然のことに体が硬直して、思考が回らなかった。
そんな私に向かってあなたは続けたわ。
「付き合ってくれない?」
……何の冗談かと思った。
あなたが私を好き?
っ、今さら私の心をかき乱さないでよ!!
簡単に私の中に土足で入ってこないで。
私は、幼なじみとしての関係を選んだんだから。
あなたから逃げたんだから。
どうせこの恋もすぐに終わりを迎えるんでしょう?
こうやって話ができなくなるくらいなら今のままでいい。
やっと消えかけたあなたへの長い初恋に終止符を打たせてよ。
そう思うのに。
「私も好き」
長く積み重ねてきた恋心を止めるすべが見つからなかった。
今までの苦労なんかすっかり忘れて、彼の突然の告白に歓喜を隠し切れなかった。
「俺、嫌われてるかと思ってた……」
愛しそうに抱き締める腕を受け入れて、口づけを交わした。
逃げてばかりいた私に起こった奇跡。
満月に照らされて映し出された二人の重なる影。
この幸福が永遠に続けばいいと願わずにはいられなかった。
『永遠の愛』なんて信じていないのに。
幸せな日々なんて長くは続かないのに。
それでもこんなにも早く終わりの時が訪れるだなんて、誰が予想できただろうか。