【短編】月明かりの下で、愛を囁く
どうしてよ!!
何で気付くのよ。
“ミカ”の体の中の“ナル”の存在に。
私は身代わりじゃなかったの?
あなたにとって私は何なのよ。
抱き締める力がより一層強くなり、彼の手が私の体を確かめるように優しく撫でだした。
「お前が事故に、合ったって聞いて……心臓が……止まる思いだった……」
躊躇いがちに触れる指先から愛しさが伝わってくる。
だけど、じゃあ何であの時“ミカ”といたのよ。
あの夜、訳も分からずやみくもに走っていた私は、赤信号にも気付かず歩道に飛び出して、
車にはねられた。
そして次に私が気が付いた時には、あなたが愛しそうに見つめていた相手“ミカ”の精神の中にいた。
“ミカ”の姿をして“ミカ”を装い、あなたの前に現れたっていうのに。
そして、慰めるフリをして“ミカ”を求めるあなたを“ミカ”に囁く愛を、鼻で嘲笑っていたっていうのに。
「ゴメン、黙ってて……。嬉しかったんだ……どんな、形でも、ナルが俺の前……に戻ってきて……」
どういうこと?
始めから私の存在に気付いていったって言うの?
じゃあ、この数日間は“ミカ”に向けてじゃなくて“ナル”に向けてのものだったって言うの?
「ナル……何でミカの姿を、してるのかは……分からない……。
けど、雰囲気で分かった……んだよ。ナルって……」