今夜はずっと、離してあげない。
「……もう。ほんと、何してるんですか」
苦笑いしながら、カバンから引っ張り出したタオルを頭にかぶせて、わしゃわしゃと雑に拭きあげる。
「ほんとーのほんとーに風邪ひきますから、帰ってください。ね?」
宥めるようにもう一度苦笑すれば、ぎゅっとタオルを掴んで俯いてしまった。
かと思えば、血色が悪い唇を震わせて。
「……あ、」
「あ?」
「……あの時、なにも言えなかった、のは、言葉が思いつかなかった、からで」
まるでそれは、初めて自分の気持ちを声におとしているかのような、拙さで。
「決して、あんな別れ方に、終わり方にしたかったわけでもなくて、」
「……あ、の、ちずみさ、」
「ただ、母さんが帰ってきたって言葉に、驚いて。俺の本心を見透かされてたことに、びっくりした、だけであって、」
「なんの、はなしを、」
けれど、声は、言葉ははっきりと耳に届くから。
「ほんとは、あの時、まだ氷高と、……氷高真生に、おかえりを言える場所に帰りたいって、言いたかった」
無性に、なきたくなってしまうんだ。