今夜はずっと、離してあげない。
さよならしたのはほんの数日。
すれ違いにも満たない間で、生まれた何かはきっとある。
「……おれが風邪ひくから?」
「まあ、それもありますけど、」
タオルから覗かせた瞳は、いつもよりも自信なさげ。
堂々として、キリッとしてるいつもの彼はどこへやら。
「私が、あなたに帰るのを待っていてほしいだけです」
ふたり並んで傘の中。
片っぽは全身びしょ濡れ。もう片っぽは足がびしょ濡れ。
それでもきっと、隙間はない。
「あ、それから、家を貸す条件として、ひとつ提示してもいいですか?」
「……なに」
「今度、あかねさんのお墓参りに付き合ってください」
「……りょーかい。くしゅっ、」
「まずはお風呂ですかね」
意味を持たない傘の下。
どんより曇り空の夜。
ぴったり寄り添うふたりの間に、冷たい夜は待っていない。
「明日から、また氷高の〝おかあさん〟頑張るか」
「よろしくお願いします、伽夜おかーさん」
ふたりでいれば、きっと夜は凍えない。