今夜はずっと、離してあげない。
「真生がやりたいって思うことを、俺が制限していい謂れはないだろ。ただし、包丁は絶対に俺が見られる時にしか触んないこと。いいな」
やさしい表情から一変。
ずいっと顔を近づけて、これだけは絶対厳守、と怖い顔で伝えてくる。
だ、だからこの人、顔近いって!!
「わ、わわ、わかりました」
「よし、ならいい。じゃ、冷めないうちにさっさと食べるぞ」
「……はーい」
スッと何事もなかったかのように離れた距離に、どこか違和感を覚えるようになってしまったら、もう末期だ。
「いただきます」
「……お召し上がりください」
「この家ではお前のほうが立場上なんだけどな」
苦笑いをしながら、肉じゃがへと箸を伸ばす伽夜に、ごくりと生唾を飲み込む。
ぱくり、と小さな口へと吸い込まれていった、味が染みている……ハズのじゃがいも。
うっ、ど、どうだろう。味付け間違えてないよね?千井に確認してもらったし、変なものは一切入れてないから大丈夫だとは思うけど!
……若干、千井家の冷蔵庫にキムチとかハバネロソースとか、エビチリの残りとか、赤いものが多かったのが気になった。