今夜はずっと、離してあげない。



伽夜のまあまあ、という言葉に地味にショックを受けながらも、むずむずするような、もどかしい燻りが消えない。



「………それだけを聞きに来たんなら、このあと予定あるし、帰るけど」

「……あ、」



目をうろうろさせていたお母さまだけど、やがて諦めたようにわらって、そっか、と呟いた。

それが、おわりの合図。



「……真生、行くぞ」

「……え、」



繋がっていた手が、引っ張られる。


伽夜が立ち上がったのにあわせて、私も立ち上がりかけて。その時、唐突に理解した。

なんで、伽夜が私にこの場に同席してほしいって言ったのか。


違ってたらはずかしいし、きっと後悔するだろうけど。

ここで何も言わずに、伽夜と一緒に立ち去ってしまうほうが後悔する気がして。


たぶん、……それは、伽夜も同じで。



「……あの!伽夜のお母さまは、なんで、伽夜に会いに来たんですか?」



私に、不器用な自分に、口下手な自分にかわって、聞いてほしかったんだと思う。


< 295 / 415 >

この作品をシェア

pagetop