意識して、すきにして、


「じゃ、触るからね」


宣言をして手を伸ばしたわたしを、かやが鼻で笑った。


さっき思い浮かべた通りの、その笑いかた。


むかつく、なんでもかんでも見抜いてんの、ほんとまじでむかつく。


「なんでそんな、意気込んでんの?」

「……ひとの髪とか、普段触れないもん。緊張してるだけだよ」

「ちがうだろ」

「ちがうって、何が」


おまえ、そんなこともわかんねぇの?


言って、目を細めて、姿勢を正して、頬杖ついて。


わたしの目の、奥の奥をとらえたがる、その暗がりな瞳。


見ないでって言いそうになって、こらえて、深呼吸。


見ないでなんて言った日にゃ、完全にわたしの負けだ。そんなの、癪だから。


でももう、きっと。


わたしが負けているんだろうけれど。


「──おれだから、じゃねえの」


はぁ。わざとらしくため息をついて、「何言ってんの。触るよ」……立ち上がる。


見下ろすようにして、髪をひと房、掬った。


座ったままでも、届いたんだけど。知ってるけど。こうしなきゃ、いろいろ、無理。

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