御曹司、家政婦を溺愛する。
「なんなのよ、この女」
下着姿だった三人の女性たちは、各々服を身につけながら私を睨む。
新堂隼人は「はぁ」と面白くなさそうに息を吐くと、キッチンの冷蔵庫からペットボトルを取り出して、興醒めとばかりに中身を半分程飲み干した。
部屋の床にはいくつかのゴミの袋と衣類、雑誌が散乱して、テーブル回りにはアルコールの瓶や缶が何本か転がっている。テーブルの上にも瓶や缶が並び、吸殻の溜まった灰皿やおつまみやナッツの袋が広がっていた。
「鈴ちゃん、耳の鼓膜が破れる前に音楽を消してくれてありがとう。窓も開けてくれて助かったわ」
「いえ……」
ホッとする幸恵夫人に小さく返事をした私。
女性たちは「帰るわ」と新堂隼人と軽くキスを交わして部屋を出ていく。帰るのを嫌がるかと思いきや、意外とあっさり帰った彼女たちに私の方が少しだけ拍子抜けしてしまったことは内緒だ。
それより驚いたのは、あの頃と変わり過ぎた新堂隼人のことだった。
「隼人。あなた何をやってるの?朝からお酒を飲むくらいなら会社に来なさい。あなたの代わりに関口くんがどれだけ頑張ってくれているのか、知ってるの?彼のためにも、ちゃんと出社しなさい」
幸恵夫人が目を吊り上げて怒る。
新堂隼人の反応が悪い。それどころか、ソファにだらりと座ったまま片足をテーブルの上に乗せて、片腕も肘掛から垂らして脱力している。彼は何も言わず、レースのカーテンが小さく揺れる窓の外をぼんやりと見ていた。