御曹司、家政婦を溺愛する。
新堂隼人も私をジロリと睨み「早く帰れ」と目で訴えてくる。
しかし契約して料金ももらっている以上、私もプロとして仕事をしないわけにはいかない。
私は新堂隼人に向き直り、改めて挨拶をした。
「先程は大変失礼致しました。小栗ハウスサポートから参りました、家政婦の佐藤鈴と申します。平日朝十時から休憩を挟んで夕方五時まで、夕飯のご用意を含む家事をいたします。よろしく……」
「必要ない、帰れ」
「いえ、でも、お母様から既に料金も頂いておりますので、仕事をさせて頂きます」
「はっ、いいじゃないか。金はもらっているけど俺は来るなと言っている。何もしないで儲けるなんて、世の中、上手い話しが転がっているもんだ」
高校の頃よりワントーン低い声で、その投げやりな言い方にムカッと小さな怒りが湧く。
「私は契約者のお母様の指示で、ここで仕事をすることになっています。仰りたいことがあれば、お母様にお願い頂きたいです」
私も出来るだけ申し訳なさそうな口調で伝えて、トートバッグの中から仕事用のエプロンを取り出す。
ダークグリーンの生地に「Life Service」と白文字で書かれたエプロンだ。左胸には会社名と名前の入った名札をつけている。