御曹司、家政婦を溺愛する。

「ライフサービスって、家の中を綺麗にしてくれるんだよな?」
近くで聞こえた声に、顔を上げる。
エプロンの紐を後ろで結んだ体勢で、すぐ目の前に新堂隼人の顔があった。彼が両腕で私の両肩を、痛いくらい力を入れて掴んでくる。

「だったら、俺の欲求も綺麗にしてくれよ」
「……えっ」

鼻先が触れるくらいに顔を近づけて来る彼に、私の体がガチッと強ばる。新堂隼人のその目は見るものを凍らせるほどの冷たさで、そして本能のままにギラギラと獲物を狙う鋭さを放っている。
顔は女の私から見ても、悔しいくらい整って美しいのに。

──彼に一体、何があったというの?

新堂隼人の、恐怖さえ感じるその歪んだ顔に、なんと言えばいいのかわからない。

「……っ」
すると彼の瞳から光が消え、肩を掴んでいた手をパッと離した。
「し……しん……ど」
気の緩みから、ポロリと名前を呼びそうになった。
彼の顔もフッと横を向いて、興味が無くなったかのように再び「帰れ」と言って、リビングから出ていった。

今になって、自分の体が震えていたことに気づく。迫ってきた彼の顔が、本当に怖かったのだ。とはいうものの、仕事はしなくてはいけないが、家主が拒否をする。

──今日はこの部屋の片付けだけでもやって、帰った方がよさそうだ。

私は両手にゴム手袋をして、持参したゴミ袋を広げて作業を始めた。
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