御曹司、家政婦を溺愛する。

翌日。
十時少し前にベリーヒルズのレジデンスに着いて、コンシェルジュに声をかける。すると、
「申し訳ありません。新堂様より、自宅に通さないように言われておりまして……」
と、彼女も少し戸惑ったように眉を下げ私を見つめる。

──困った顔されても、私も困るんです。

「すみません。もう一度、新堂さんに取り次いで頂いてもいいですか」
と、申し訳ないと思いながらコンシェルジュに頼んで連絡してもらう。
「はい、はい」と電話で話が成立しているので、本人が部屋にいることは確実だ。
受話器を戻した彼女が「申し訳ありません」と言う。
「帰って頂くように、と。そして明日から来ないで頂きたい、という伝言を承りました……」
彼女は涙目になって、鼻声でポツポツと話す。きっと彼女も新堂隼人に何か言われたのかもしれない。
仕方ない。
「今日は帰ります」
私はレジデンスを出て事務所へ戻った。

その翌日。
私は昨日と同じ時間にレジデンスへ行ってみた。
「佐藤さんっ」
昨日のコンシェルジュのお姉さんが、慌ててこちらに近づいている。
「おはようございます」
私は呑気に挨拶した。
彼女は顔面蒼白で、両手で拝んで声を上げた。
「お願いです。今すぐお引き取り下さいっ。でないと私……クビにっ……」
と、大きな瞳から涙がポロリと落ちる。
「え?」
目を丸くする私に、「お願いです、お願いです」と、彼女はレジデンスの外へ私を力なく押している。
そんな必死な彼女に負けて、私はレジデンスの外へ出た。
振り返って、白い建物を見上げる。一瞬だったが、ベランダから隠れる誰かを見た気がした。
「……」
私は西里マネージャーに報告するために、事務所へ戻った。
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