御曹司、家政婦を溺愛する。
耳元で久しぶりに聞いた声に、「とくんっ」と胸が鳴った。
グッと力強く肩を寄せられて、抱えられるようにして歩き出した。
「すぐに戻れよ」
眼鏡の彼の言葉に、私を抱える人は何も言わずにオフィスビルの玄関に向かった。
エレベーターホールの前で聞こえた声に、ピクリと体が反応した。
「新堂リゾートの御曹司よ。相変わらずステキね」
「隣の彼女は誰?恋人?」
噂と一緒に漂う、強い香水の匂い。
俯く頭を余計に低くした私に、
「くだらん。聞き流せ」
と彼は言い捨てて、私を外へ連れ出した。
被せられた上着から解放され、改めて彼を見上げる。
ちょうど上着を着るところで、片腕に袖をスッと通すスマートな動作に色気を感じて、ドキドキしてしまう。
黒の三揃えのスーツ、ダークグリーンのネクタイ、少し長めの髪は軽く流して自然な感じだ。
両手をスラックスのポケットに入れて、私を見下ろす、新堂隼人。その目は少し細めて何かを探っているように見えた。
「お前」
と、呼ばれる。
「来なくなったかと思えば、毎日コンシェルジュに電話して俺の行動とかを根掘り葉掘り聞いているらしいな。プライバシーの侵害だ。ストーカーか?」
と、眉間に皺を寄せて不機嫌に私を睨む。
本当は同級生相手に「違うわよっ!」と言ってやりたいところだが、相手はお客様だ。本音をグッと堪えて「お客様」に頭を下げた。