御曹司、家政婦を溺愛する。

午後五時。
夕食の支度を終えた私は、リビングでタブレットを見ている新堂隼人に声をかけた。
「時間になりましたので、失礼します」
私に気づいた彼は「あ、ちょっと待って」と立ち上がる。そしてテーブルの財布の中からお札を取り出しながらやって来た。

「さっきの昼飯の話だけど。俺が個人的にお前を昼飯だけ雇っていいか?」
「個人的に昼食だけ……?」
と、首を傾げる私に彼は「そう」と答える。
「別に会社とか契約とか、そんな堅苦しいものはないが、佐藤の来る日だけ、会社の家政婦として働いて、休憩時間は俺が雇って昼飯を作って欲しい。もちろん雇うからには金は払う」

ある意味、優しい口調の要求という感じだ。

──もしかして、新堂くんは料理をしないのだろうか。

私の答えを待っている彼の顔を見る。
彼の差し出したその手には、三万ある。
「これは今週の料金。来週も同じだけ払う」

給料の他に昼食を作るだけで三万……。
自分の休憩時間を取られるのは、正直つらい。
しかし今は、少しでもお金が欲しい。

「わかりました。やります」
その返事に、彼はふっと肩の力を抜いた。
「俺の勝手で悪いな」
「メニューは私のお任せでいいですか」
「ああ。お前の飯は美味いから任せるよ」
と、交渉成立して、私は彼から三万を受け取った。

新堂隼人の部屋を出て、私は手に握った三万を見つめた。
三万をもらえたから嬉しいんじゃない。

彼はまた、私に大切な宝物をくれたのだ。
それが三万より嬉しかった。


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