御曹司、家政婦を溺愛する。

作業就業時刻になった。
乾燥機で乾いた服に着替えようと脱衣所に行く私を引き止める新堂隼人。その手には体温計らしきものを握っていた。
「佐藤、じっとしてろよ」
「え?」
その小さな体温計を、私の額に近づけるとすぐに「ピピッ」と音がした。彼はそれを見て、表示されたものを私にも見せてくれた。
「三十七度八分……」
「昼間の雨で熱が出たんだ。明日は休みだろ?家に泊まっていくといい」
新堂隼人はそう言ってスマホをタップする。
仕事中は少し体がふわふわしてると思ったが、熱があったとは。

「うちに来てもらっている家政婦さんですが、熱があるのでこのまま早退させてください。はい、仕事は午後五時までやってもらいました。……わかりました、失礼します」

彼のおかげで早退できるのはありがたいが、ここに泊まるわけにはいかない。私は洗濯機から乾いた服を取り出した。
「佐藤、お前の会社に電話したから今日は戻らなくていいぞ。ここに泊まって……って、何やってるんだ?」
「着替えて帰るんです。そのドア閉めてください」
新堂隼人は取り出した服をヒョイと取り上げた。
「その必要はない。今日はここに泊まれ」
「い……いやです。お客様の自宅に泊まるなんて、できません」
私は首を横に振る。
首を振ったことがいけなかったのか、体がクラリと揺れた。膝がガクッと折れると同時に、彼の腕が抱きしめるような形で、私の腰を支えた。
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