御曹司、家政婦を溺愛する。
新堂隼人の作ったポークソテーとポテトサラダ。私の作ったなすの味噌汁。
「お、おいしいっ」
「だろ?」
向かいの席で整った顔の彼が微笑む。
「ポークソテーのこのソース……私が作るより美味しいかも」
「おいおい、プロの家政婦がそんな事言うなよ」
本気で落ち込みそうになる私に、彼は笑う。
「俺、本当は料理人になりたかったんだ。中学くらいの頃から料理が楽しいと思うようになって、よく一人で飯を作っていたことがあった。進路を決める時に、親と喧嘩になったことがある。「料理人になりたいから調理の学校に行きたい」と言ったら、親父が「俺の後を継げないならなんの援助もできない、勘当だ」と怒られた。まだ中学だった俺は諦めるしかなかった」
彼が自分の将来をちゃんと考えていたなんて、知らなかった。夢を諦めるしかなかった御曹司……。セレブの世界も意外と厳しいのかもしれない。
しかし新堂隼人は笑顔のままだ。
「今は今でよかったと思っている。確かに親父の後を継ぐのは生半可な覚悟じゃ無理だから。自分を試すのにいい刺激だし。それに……まあ、いいや」
と、最後は言葉を濁すような感じで終わってしまった。