御曹司、家政婦を溺愛する。
お腹いっぱいの食後に、私はコーヒーを淹れた。
「サンキュ」
ソファに座る彼にマグカップを手渡しして、自分のマグカップをテーブルに置いて、ソファの下の毛並みの良い絨毯の上に座る。
気になっていることを聞いてみようと思った。
「新堂くん。言いたくなかったら話さなくていいんだけど……少し気になって」
「ん。なに?」
落ち着いている彼に、思い切って聞いた。
「私が初めてここに来た時、新堂くんが何故あんなに荒れていたのか気になって。何かあったのかな、と思ったの」
遠慮しながら言ったはずだったが、彼は目を細めて無言になってしまった。
「……」
どれくらい時間が過ぎたのか、白い蒸気が上がっていたコーヒーもぬるくなってしまった。
「……もうすぐ、婚約が正式に決まる。本当はそうならないように俺なりに頑張ってきたが、相手がもう待てないと言ってきた」
眉を寄せて、苦しそうに話す。
「俺に許嫁がいることは知っているよな。同じ学年だった大河内美織。あいつの親父は銀行の頭取で、親同士が幼なじみなんだ。どちらも子供が生まれて、結婚させようという話があったらしい。美織とは小さな頃から知っているが、互いに成長しても、俺は美織に幼なじみ以上の感情は持てなかった。だけど美織は……」