御曹司、家政婦を溺愛する。

桜子に会えるという気持ちから、新堂隼人の家政婦も昼食作りも、残ったご飯で作る朝食のおにぎりも、少しだけ楽しいと思えた。

そして木曜日。
いつも通りに新堂隼人の自宅に出勤すると、リビングのテーブルに青い封筒が置いてあることに気づいた。

──珍しい。会社の書類はいつも書斎に持っていくのに。

私は気に止めることなく、仕事をこなしていく。そんな時、スマホの着信音が鳴った。発信元は見覚えのない番号。
誰だろう、とタップした。

『新堂リゾート専務秘書の関口と申します。家政婦の佐藤鈴さんの番号で間違いありませんか』
男性の声で、音声ガイダンスのような口調で聞かれて、私は「はい」と答えた。

『実は専務の新堂が大切な書類が入った封筒を、自宅のリビングに忘れたそうです。ご確認出来ますか』
その質問に、私は視界に入る青い封筒を横目に、
「リビングのテーブルにある、青い封筒でしたらあります」
と、答えた。
関口さんは「それです」と、感情なく言う。
「私が伺いたいところですが、これから各国のホテルの責任者とリモート会議があるため席を外すことが出来ません。大変申し訳ありませんが、オフィスビル三十六階の新堂リゾートの受付の者に、関口宛で届けていただけないでしょうか」
秘書の関口さんが言うのだから、きっと新堂隼人は困っているのだと思った。
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