御曹司、家政婦を溺愛する。
金曜日。
いつものように朝の事務所に顔を出すと「鈴さん、ちょっと」と、西里マネージャーに手招きをされた。
「おはようございます」
と言いながら、彼女の後を追ってテーブルに腰を落ち着かせる。
西里マネージャーの表情が、いつもより硬い。
「鈴さん、正直に答えてくれる?新堂さんの自宅で何か問題があったり、不注意で何か壊したりしなかった?新堂ご子息からお叱りを受けたとか、なかった?」
と、突然そんな事を聞かれて、私は「え?」と声を漏らして首を傾げた。
「いえ、特に何もないですけど……。何かあったんですか」
と、キョトンとしている私に、彼女は「昨日電話があったのよ」と教えてくれた。
「昨日の夜、新堂夫人から連絡があったのよ。来週から家政婦の佐藤さんを男性のスタッフに変えて欲しいって。鈴さん、もしかしてご子息に色気を振り撒いたりした?」
真面目に聞いてきた彼女に、私は体を仰け反って「ええ?」と驚いた。
──色気に自信があったら、二度も失恋なんかしないわよ……。
喉から出そうなこの言葉を、私はゴクッと飲み込んで、「そんなこと、しませんよ」と大真面目に答えた。
西里マネージャーは困ったように額に手を当てて、大きなため息を吐いた。
「じゃあ、何が気に入らなかったのかしらね。新堂夫人に理由を聞いても「とにかく変えてくれ」の一点張りだし、直接ご子息と話したいと申し出ても「出張で不在だ」と断られるし。だから鈴さんに聞くしかないのよ」
「新堂さんは、本当に私を気遣ってくれました。買い物で傘を忘れた時も迎えに来てくれたり、洗濯も手伝ってくれて……あ」
と、私はすぐに手で口を塞いで彼女の顔色を伺った。