御曹司、家政婦を溺愛する。
案の定、彼女の顔は険しくさせた。
「もう。家主に世話を焼かれてどうするのよ。家主のサポートをするのが私たちの務めでしょ」
キツいお叱りに頭を下げて「はい、すみません」と反省する。
私も家政婦として、まだまだだ。
「新堂夫人から交代を言われたのだから、来週から藤村くんに行ってもらうことにするわ。鈴さんは、今日はご子息のところで仕事をして、来週から小田切さんの家政婦をお願いね」
レジデンスのコンシェルジュに挨拶をしてカードキーを預かる。コンシェルジュの彼女たちは新堂隼人に何かあっても決して余計なことは言わない。
彼の自宅で一日しっかり働いた。洗濯をして窓を拭き、掃除した。買い物に行き、昼食の支度をする。メニューは生姜焼きとマカロニサラダだ。豆腐とわかめの味噌汁も美味しくできた。
休憩の後は残りの片付けをして洗濯物にアイロンをかける。今日の夕食は二色のそぼろ丼と豚汁と決めていた。新堂隼人の好きな料理だ。
休憩から戻ると、用意してあった昼食は綺麗に食べて、食器まで洗ってあった。
本当に、彼は優しい。
午後五時になり、私は彼から預かった昼食のお金を封筒に入れて、メモと一緒にテーブルに置いた。
『来週からは昼食の用意ができません。今までありがとうございました。』
カードキーで玄関の施錠をする。
これで新堂隼人の家政婦は終了だ。
「新堂くん、お世話になりました」
私は玄関に向かって、頭を下げた。