御曹司、家政婦を溺愛する。

「佐藤さん」
レジデンスを出る時に私を引き止めたのは、先日「クビになる」と泣いていたコンシェルジュのお姉さんだ。受付でカードキーは返したはずだが、と思いながら追いかけてくる彼女を見る。
「あのっ」
彼女は少し息を切らせて言った。
「あのっ、新堂様は引きこもりになる前は、とてもクールで仕事が出来るエリートって感じでした。でも、今の新堂様はエリートな感じは変わりませんが、表情が柔らかくなったと思います。優しくなったというか……」
躊躇いながら話す彼女に、私は「はぁ」と返事をする。

「この前、思い切って聞いてみたんです。「顔色がいいですね。何かいいことがあったんですか」と。新堂様は笑って「環境が変わると自分も変われる気がする。多分、家政婦さんのおかげだよ」と仰ってました」

私のいないところで、彼はそんなことを話しているのか。何だか照れ臭くなってしまう。
しかし、彼女は心配そうに言った。
「あなたがいなくなったら、新堂様はどうなってしまうんでしょうか……」

──また引きこもって空気の悪い部屋で、女たちを呼んでいるってか?

私は苦笑する。
「新堂様は大丈夫ですよ。私の代わりのスタッフは優秀ですから、きっとしっかりサポートしてくれます」

本当にそう願って、彼女から離れた。

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