御曹司、家政婦を溺愛する。
「に、しても」
んぐっ、とアップルパイを飲み込んだ静香夫人が、話を続けた。
「セレブの世界には「あるある」でしょうけど、うちの家政婦を横から取っていかれる気分は、あまり良くないわね。天下の新堂リゾートだからといって、何でも思ったままに進むと思っているのかしら。それに鈴ちゃんの仕事先は「あの」新堂家の長男の自宅でしょ?心配だわ」
会話の後半の意味ありげなセリフに、私も「えっ」と声を上げた。
「心配って、静香さんは大袈裟ですよ。ご長男の自宅はベリーヒルズのレジデンスです。新堂リゾートの後継者なんですから、ちゃんとした人ですよ」
と、笑顔を作りながら、内心もそうであって欲しいと願った。
しかし静香夫人は浮かない顔でローズティーを眺める。
「最近聞いたのよ。先日のオフィスビルのパーティー以来、彼は会社を休んでいるそうよ……」