御曹司、家政婦を溺愛する。


みんなの帰った校舎の教室で、頭を下げたままの新堂隼人に、南田桜子の声は小さくポツリ、ポツリと言葉を落としていく。

「鈴のお父さんの会社が佐藤製菓だって、知ってる?おじさんは面白いお菓子をたくさん開発してて、私は子供の頃から「くじチョコ」や「パチパチガム」が大好きだった。人気商品がたくさんあったし、業績だって悪くなかったはずよ。……鈴から連絡があったの。「突然銀行から融資が受けられなくなって、経営が出来なくなったから会社が倒産した」って。おじさんたちは従業員のみんなを慌てて知り合いの会社に受け入れてもらうように頼んで回り、鈴たち家族も破産の手続きの後、負債額を返済するために引っ越すことになったそうよ……。私、お父さんに佐藤製菓の倒産のことを話したの。お父さんは「売上のある佐藤製菓が融資を受けられないのはおかしい」って言ってた。鈴は「家族が大変なのに、自分だけ大学に行くことなんてできないから、働くことにした」って……」

新堂隼人は桜子を見上げて、その話をじっと聞いていた。そして、悔しそうに呟いた。
「そうか。だからあの時、佐藤は泣いていたのか」

新堂隼人は立ち上がり、スマホを手に電話をした。
「あ、俺。悪いが少し調べてくれないか。佐藤製菓のメインバンクだ。経営状況がどうだったかもわかると助かる」

通話が終わった彼は、南田桜子に言った。
「佐藤のこと、無理に話させて悪かったな。俺、アイツが泣いているのを見かけたんだ。理由を聞いても言わないし、それでも俺たちと一緒に卒業すると思い込んでいたから。俺、佐藤に……」


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