御曹司、家政婦を溺愛する。
すっかり冷めてしまったパスタを眺める。
──そっか。新堂くん、もう全部知っていたのか……。
知っていたのに敢えて言わなかったのは、彼なりの優しさだったのかもしれない。会社が倒産して借金を抱えても、新堂隼人は私を蔑んだり見下したりしなかった。逆にビジネスマンらしく、昼食の取り引きをして私を助けようとしたのかもしれない。
本当に昔と変わらない彼に、私はまた救われているのだと思った。
桜子はぺこりと頭を下げた。
「鈴、ごめんね。鈴のために土下座をした新堂くんを無視することができなかった。彼は本当に鈴を助けたいみたいだったから、知ってることを話しちゃったの……」
しゅん、と眉尻を下げる彼女に、私は「大丈夫よ」と言った。
「謝ることはないよ。桜子だって、新堂くんだって、私のためだったんでしょ?その気持ちだけで嬉しいから、ありがとうね」
小さく笑った私に、桜子は涙を浮かべながら笑って頷いた。
「新堂くん」とワードが出ると、話題はあのことになる。
「新堂くん、大河内美織との婚約はもうすぐなんでしょ?本当は新堂くんが副社長になってからの予定だったらしいけど、彼女のほうが「もう待てない」と急かしたみたいよ。新堂くんはあれこれ理由をつけて引き延ばしてるみたい」
二人でデザートのバニラと木いちごのジェラートを食べながら、私も「そうね」と相槌を打った。
それもそうだ。新堂隼人はきっと好きな人のために婚約を延ばしていると、私は思っている。彼は大切にしたい女性のために足掻いていると思った。
「それにしても、大河内美織も大変よね。新堂くんがあれだけカッコイイから寄ってくる女性の数も桁違いよ。だから最近は大河内美織がストーカーのように新堂くんにくっついて、女性たちを追い払ってるって噂よ。安易に想像できるから笑っちゃった」
と、桜子はクスクス笑った。
私は昨日、その大河内美織に会ってチクチク言われただけに笑えない……。
「そうだね。同じ会社にいるくらいだしね」
と、食後のコーヒーを啜る。