御曹司、家政婦を溺愛する。
俺は盛大なため息をついて、「美織に騙されたな」と話した。
「俺はアイツから色目を使われたことも、襲われたこともない。会社に行ってからは全く会っていないのに。美織の言うことにイチイチ反応するな。すぐに家政婦を戻してくれ」
ついでに俺の昼飯まで無しにしないでくれ、と言いそうになった。
『あら、それはダメよ。交代したら問題がない限り二週間は変えられないのよ』
「は?」
俺のイライラは積もっていく。
「いいか。大河内親子の言うことは全て無視しろ。親父の言っていた婚約なんちゃらも白紙だ。その機会は俺が作るから待っててくれ。親父にもそう言っておいて」
と、通話を切る。
今頃スマホの向こうで母は騒いでいるだろう。
そして月曜日。
俺は新たな家政「夫」を待った。
「おはようございます。小栗ハウスサポートから来ました、藤村稔です。よろしく……ええっ」
俺は待っていたとばかりに、俺より少し背の低い優男を玄関から中へ引っ張りこんだ。
「な、なにするんですかっ」
「お前が新しい家政夫か。聞きたいことがある。佐藤は今、どこにいる?」
「ぼ、僕たちには守秘義務があるので言えませんよっ。でも、今日から行くところは家主さんは優しい人なので、可愛がってくれるかと……」
「可愛がる……だと?」
寝不足の頭の中で、金持ちの白髪紳士が佐藤に抱きついてニヤニヤしている光景が浮かぶ。
──ゆ、許せん。
「は、離して……」
気がつくと、俺は藤村の胸倉を思いっきり握りしめていた。
「あ、悪い」
パッと離すと、彼は苦しそうに呼吸をした。