御曹司、家政婦を溺愛する。
「母親として情けない話なんですが、最近の息子が何を考えているのか、さっぱりわかりませんの」
「はい」
レジデンスへ向かう道中で、幸恵夫人が話し始めた。
「息子の様子がおかしくなったのは二週間ほど前からで、会社に来なくなって様子を見に行ったんです。部屋は驚くほどの荒れようでした。何を問いかけてもすぐに追い出される始末で。せめて部屋に誰かいれば居心地が悪くなって会社に来るかと思って。家政婦にあなたを選んだのは、息子と同じ高校の出身なら信用できると思ったんですの」
「はあ、そうなんですか」
なるほど。息子と同じ高校の出身の家政婦を探していたのか。多分、なかなか見つからなかったはずだ。セレブ高校の出身で家政婦になった人なんて。
しかし出身校は関係なく、本人が反抗的なら誰が家にいてもご長男は容赦なく追い出すような気がした。
──なんだか、厄介なことにならないといいが。
そんな思いを胸に、私の知る新堂隼人とは同姓同名の別人であって欲しいと願って、レジデンスへ足を踏み入れた。
受付にいるコンシェルジュの女性とは顔見知りだ。幸恵夫人と一緒にいる私を見て「おはようございます」と挨拶をしたが、彼女は驚いているように見えた。