御曹司、家政婦を溺愛する。

「鈴さん、心当たりはないんですか?」
と聞かれて、私は「ないです」と、首を横に振る。
スペインのスイートベル。スペインはバラの似合う情熱的な国というイメージがあるが、それと私へバラが届くことは全く関係のないことだ。
スタッフの女性がスマホを見ながら呟いた。
「赤いバラの花言葉は「あなたを愛しています」。青いバラの花言葉は「夢が叶う」「奇跡」。店長さんが言ってましたよね。赤いバラは九十九本、青いバラが一本、合計百本。百本のバラは「百パーセントの愛」という意味があるそうです」

なんとも情熱的な意味のある花束だ。

「でも、本当にスペインに知り合いなんていませんよ。もしかして、間違えて送られてきたとか」
「そんな正確な宛名の間違いなんてあるかいっ」
西里マネージャーに突っ込まれてしまった。

スペインなんて遠い国から、一体誰が。

バラはとても持って帰れないので、事務所の花瓶をありったけ出して生けることにした。そして、私は青いバラの一本だけを持ち帰ることにした。

花言葉は「奇跡」。
もし奇跡が起こるなら。

──借金が一瞬でなくなるとか?

ないな。

──また、もう一度あの人の家政婦に……。

大河内美織がいるから、無理か。

──もし、バラの花束が新堂隼人からだとしたら。

誕生日、きっと知らないよね。


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