御曹司、家政婦を溺愛する。

私がそんな心配をしていたのに、年末近くになって両親がお正月に温泉旅行に行くと言い出した。
会社が倒産してからは、外出なんて出来なかったので、行かせてあげたい気持ちはある。しかし、あの三千万の返済額の出処がわからないままでいいのか、不安が残る。

「鈴、心配ない」
父のその一言で、私は両親の旅行を送り出した。


年が明けて、寒い冬が少しずつ春の訪れを迎えようとしている三月。

小田切家の静香夫人から驚くべき情報を聞いたのは、二週間前のことだ。
「大変よ」と、見せられた雑誌には新堂隼人のことが載っていたのだ。

『新堂リゾートの若き御曹司、時期ホテル王は秒読みか?!』
新堂隼人の相変わらずのイケメン顔の写真を見て、ふふっと笑みがこぼれる。

──頑張っているんだなぁ。

記事を読んでみると、彼は去年の秋頃から海外の経営するホテルの視察を行い、サービスの見直しやスタッフのスキルアップとお客様の対応プログラム研修を実行。その上、窮地に立つホテルを見て回り、利益を出せると見込めるホテルを買収して新堂リゾートの「ラグジュラリオス」としてリニューアルさせた。既にオープンしているホテルを何件か紹介している。

世界各国のホテルの支配人は口を揃えて言う。
「ジュニアは立派な後継者として、翼を広げている。世代交代を心待ちにしている」

「……」
新堂隼人は、もう私の届かない人になったんだと思った。

< 73 / 83 >

この作品をシェア

pagetop