御曹司、家政婦を溺愛する。
その一方で、西都中央銀行の娘、大河内美織との破局を報じる内容も書かれていた。
あのオフィスビルのレストランで二人が言い合いをしていた情報もあったとか。新堂ジュニアは聞く耳持たないとばかりに席を立って帰ったとある。
「大河内の娘は美人で賢いって聞くけど、自分の得することばかり考えて可愛げがない、という噂もあったのよ」
情報通の静香夫人も、雑誌を見て頷く。
新堂隼人を思い出さない日はないけれど、今もどこかで元気でいてくれたらいいな、と思っている。
「鈴ちゃん」
と、静香夫人に呼ばれる。彼女の後ろには三人の女性が立っていた。
「お客様ですか。お茶をご用意します」
と、早速準備をしようとした。
「ああ、違うのよ。準備をするのは鈴ちゃんよ」
「え?」
私は静香夫人に、彼女たちも一緒にゲストルームへ連れていかれた。
そして、三人の女性たちにあれこれと振り回されること二時間。
「まあ、ホントに可愛らしくて、ステキだわ」
と、静香夫人は嬉しそうに私の首筋にクリームをそっと塗った。
「これは私が愛用している、アロマクリームよ。初めてこれをつけた日、私は主人からプロポーズをされたの。鈴ちゃんに幸福と成功のお守りを、お裾分けしてあげるわ」
さあ、出来上がりよ。
静香夫人が私を姿見鏡の前に立たせた。
「……これが、私?」
赤いドレスは首回りがスッキリして女性らしく、フレンチ袖が甘くなくて大人っぽい。あまり飾りがないシンプルなドレスだが、そこが逆に色気があるように見えた。
普段はファンデーションに眉に薬用リップで終わる化粧も、今日は女優さんみたいにしっかりとメイクされた。
このピンクのリップが可愛い色だと思った。
ドレスに合わせたレースの手袋、サーモンピンクのバッグ、赤いハイヒール。それらは玄関まで連れてこられた私に次々に身につけられていく。