御曹司、家政婦を溺愛する。
三人の女性たちは静香夫人の知り合いのスタイリストさんたちだった。
完成した私を見て、静香夫人は心配に、
「娘をお嫁に行かせるって、こんな気持ちなのかしらね……」
と、しんみりとした表情を浮かべる。
「静香さん」
「私ね、実は新堂リゾートのホテルをよく使うから、隼人さんのことも知ってるのよ。もちろん、鈴ちゃんとのことも聞いているわ。鈴ちゃん、あなたは十分苦労したわ。もう、幸せになっていいのよ」
と、私に言い聞かせるように言う。
「静香さん、新堂くんは……」
私の事なんて、と言うはずだったが、
「これらは私から鈴ちゃんへ、最後のプレゼントよ。でも、宝石は私から贈るなんてヤボなことはしないわよ」
と、気を取り直して「ふふっ」と笑う。
最後のプレゼント?
「静香さん、最後って…?」
意味が分からずにいると、彼女は私にミンクファーのショールを掛けてくれた。
「こんな時に申し訳ないけど……私たち、来月にここを引き払って、フランスに移住することにしたの」
「フランスに移住、ですか?」
初めて聞く話に、びっくりする。
「前から主人の妹夫婦が「フランスで一緒に住まないか」と言われているの。でも鈴ちゃんがいるこの家も住み心地が良くてなかなか返事ができなかったのよ。主人がね、「鈴ちゃんは隼人くんに任せても大丈夫だ」と言ってくれたから。だから向こうへ行く決心ができたわ」
「静香さん……もう、会えないんですか」
いきなり悲しい報告に、一気に涙腺が緩んでしまう。
「せっかく綺麗にお化粧したのに」と、静香夫人は私の涙を拭いてくれる。
「もう会えないわけじゃないわ。隼人さんと遊びにいらっしゃい。待っているわ」
「静香さん」
「さあ、彼が待っているから行きなさい。自分の気持ち、しっかり伝えてきなさい」
と、彼女は玄関のドアを開けた。
「……いってきます」
静香夫人に見送られ、小田切家から一歩外に出る。
小田切家の前に、眼鏡の男性が、黒い高級車の前に立っていた。
「お迎えにあがりました」
「あなたは……」
いつかオフィスビルの階段で声をかけられた、あの人だった。