御曹司、家政婦を溺愛する。

エレベーターで三階、降りれば目の前が自宅玄関という設計になっている。

幸恵夫人は、ゴクリと喉を鳴らす。
「いい?いくわよ」
と、私に声をかける。
息子の部屋に行くのに、そんなに気合いが必要なのかと、私は呑気に首を傾げていた。

カードキーで解錠して、幸恵夫人はドアの取っ手を思いっきり引いた。

「!!?」
私はビックリして、慌てて両手で耳を塞いだ。

──なに、今のは?

騒音とも呼べるに相応しい、体に響く音楽に驚く。幸恵夫人はそんな私の背中を押して、部屋の中へ入った。靴を脱いで廊下を進み、二人でドアの前に立つ。彼女は私の顔を見て頷いた。そして、その扉を開けた。

「!☆♪#%*」
より一層うるさくなった音楽に、私は目を閉じる。頭もぐわんぐわんと揺れ始めたが、私の背中の服をギュッと握る幸恵夫人に気づいて顔を上げた。

締め切ったカーテン。
フロアランプの明かりだけの薄暗い部屋。
エイコンの効いたひんやりする空気。
アルコールと煙草と、甘ったるい香水の混ざった、息が詰まりそうな臭い。

奥に見える大きなソファで、下着姿で妖艶に肌を晒して座っている三人の女性たち。
その彼女たちが甘えるように囲んでいる、ソファの真ん中に悠々と座る一人の男性と視線がぶつかった。
「……っ!」
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