あやかしあやなし
序章
京の都から随分離れた山の中を、一人の旅人が大きな籠を背負って歩いている。よく見ると籠からは、ぽたぽたと血のような液体が滴っているようだ。
「頑張るんじゃぞ、烏鷺」
旅人が、小さく言った。その声はやけにざらりとした、人にしては耳障りな声だ。
が、その声に応えるように、籠が少しだけ動いた。そして。
『ぎ……ぎぎ……』
声とも音ともつかないものが、籠の中から微かに聞こえた。
旅人は小さく頷き、前を見た。青々とした木々が見えるだけだが、目指す方向は合っているはずだ。
ちろ、と振り返る。京からは大分離れた。もう追手も来ないだろう。
そう思って気を抜いた瞬間。
「!!」
いきなり旅人は地を蹴った。人にはあり得ない脚力で、傍の杉の木の枝に飛び乗ると、枝伝いに宙を駆け抜ける。
そのまましばらく進み、ある大きな枝に取り付くと、旅人はようやく足を止めた。いつの間にやらその足には鋭い鉤爪が現れ、太い枝をしっかり掴んでいる。顔も猛禽類のそれだ。
「しつこいの。急がねば」
先ほど飛んできた札を睨み、旅人は籠を背負い直すと、静かに枝から飛び降り、遥か先の化野の地を目指して駆け出した。
「頑張るんじゃぞ、烏鷺」
旅人が、小さく言った。その声はやけにざらりとした、人にしては耳障りな声だ。
が、その声に応えるように、籠が少しだけ動いた。そして。
『ぎ……ぎぎ……』
声とも音ともつかないものが、籠の中から微かに聞こえた。
旅人は小さく頷き、前を見た。青々とした木々が見えるだけだが、目指す方向は合っているはずだ。
ちろ、と振り返る。京からは大分離れた。もう追手も来ないだろう。
そう思って気を抜いた瞬間。
「!!」
いきなり旅人は地を蹴った。人にはあり得ない脚力で、傍の杉の木の枝に飛び乗ると、枝伝いに宙を駆け抜ける。
そのまましばらく進み、ある大きな枝に取り付くと、旅人はようやく足を止めた。いつの間にやらその足には鋭い鉤爪が現れ、太い枝をしっかり掴んでいる。顔も猛禽類のそれだ。
「しつこいの。急がねば」
先ほど飛んできた札を睨み、旅人は籠を背負い直すと、静かに枝から飛び降り、遥か先の化野の地を目指して駆け出した。
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