あやかしあやなし
「何でも物の怪狩りが横行してるとか」

「ほぅ? 都には狩るほど物の怪がおるのか。まぁ人が多ければ、闇も多くなるものじゃしのぅ」

「鴆が言うには、人に危害を及ぼすわけでもない物の怪まで、片っ端から狩られるらしいぞ」

「物の怪という時点で、人からは忌み嫌われるもんじゃ。おぬしもよぅわかっておるじゃろ」

 うむ、と惟道が頷く。惟道はれっきとした人間だが、心がないため感情の起伏が全くといっていいほどない。いつでも能面の無表情なので、普通の人からすると不気味である。昔から、周りの人間は惟道を避けてきた。物の怪のようだからであろう。

「やれやれ。あまり派手にやると、鞍馬のお山の僧上坊も黙っておらぬであろうにのぅ」

「鞍馬……」

「都のずっと北のほうの山じゃよ。神気の強いところじゃから、おぬしは中ってしまうかものぅ」

「俺の元いたところも京の北の外れだったと思うが、そこよりももっと北に、そんな人がおるのか」

「人ではない。物の怪よ」

 ふぅん、とさして興味なく呟き、惟道は分け終えた枝豆を持って厨に行く。この寺の掃除や食事の用意などの家事全般は、もっぱら惟道の仕事だ。元々道仙のところでもずっとやっていたことなので、別に苦でもない。
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