あやかしあやなし
第九章
 それからしばらく経ったある日、鬼っ子が井戸で水汲みをしていると、惟道がやって来た。

「前に和尚が言っていたことは、あながち外れでもないらしい」

 横に置いていた畑で採れた野菜を洗いながら、独り言のように言う。いきなりのことで、何のことやらわからない鬼っ子は、ただぽかんと惟道を見つめた。

「けど、おぬしの父が元・人だとて、おぬしが人外なのは事実。元・人でも、変化してしまってから子を成すと、その子は人外になるということかな」

 ふーむ、と一人で首を捻る惟道に、ようやく鬼っ子は我に返った。

「あ、あの。どういうこと? 何かわかったの?」

「わかった、というほどのことでもない。大江山の鬼がどういうものか、知っておる者に聞いただけだ」

「知ってる人がいるのっ?」

「人ではない。狐だ」

 さらっと驚くべきことを言う。ここに来てひと月ほどになるが、やはり惟道の、この独特の感覚には慣れない。
 鬼っ子が驚いている間に、惟道は洗い終えた野菜を抱えて、さっさと厨に戻ろうとする。

「ああっ。ちょっと待ってよ。何を聞いたの。話を聞かせてよ」

 慌てて惟道の後を追って厨に入った鬼っ子は、そこで小丸にぶち当たった。

「ぎゃんっ! 何だよ、おいらは別に盗み食いしに来たわけじゃないよっ」

 明らかに目を泳がせながら、小丸が両手を後ろに回して言う。惟道が入って来た時点で逃げようとしていた小丸だが、そこで鬼っ子にぶち当たってしまったらしい。

「全く、もう少しで飯なのだから、我慢せぬか」

 言いつつも、吊るしてあった干し芋を一切れ、小丸に投げる。小丸が嬉々として干し芋に飛びついた。

「その芋をやるから、こいつを羽衣のところに連れて行ってくれぬか」

 ちょい、と鬼っ子を指して言う惟道に、小丸は芋を噛りながら、ちらりと目をやった。
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