あやかしあやなし
「あのねぇ。あの人って、そうそう簡単に会える人じゃないのよ」

「だからおぬしに面通しを頼んでおるのだ」

「いくらおいらでもさぁ。惟道とは訳が違うんだし」

「単なる人よりも、鬼のほうが会う価値はあるやもしれぬぞ?」

「惟道は単なる人じゃないよ」

 ぶちぶちと言いつつ、小丸はじろじろと鬼っ子を見、ひくひくと鼻を蠢かす。

「まぁ鬼だから穢れてるってわけでもないしねぇ」

 うん、と頷く小丸に、鬼っ子は少し意外そうな顔をした。それに気付き、惟道が口を開く。

「都で出会ってから結構経つしな。あの頃は扇動者もいたし、おぬしの心もどす黒かったのであろうよ。今は周りに敵意もないし、穢れるようなこともなかろ」

「お、鬼は存在から穢れてるものじゃないの……?」

 おずおずと聞く鬼っ子に、惟道は首を傾げる。

「基本的には、そうかもな。俺の中にいた鬼も、穢れにしか反応せなんだし。だが穢れが好きなだけであって、そのものが穢れているってのも違うのかも」

 思い付いたように言う。小丸も、ぽんと手を打った。

「そういやそうね。まぁ穢れを力にする妖もいるから、そういうのはもうずっと穢れを取り込んでるから穢れてるっていうんだろうけど。でも人も血を穢れとするしね。血なんて体の中にあるものなんだから、そうすると人自体穢れてるってことになる」

 あははは~っと小丸が笑う。

「ま、人など汚いものだがな」

 ふん、と吐き捨てるように言い、惟道は炊き立ての飯を少し横に分けた。

「羽衣のところに行くのに、握り飯でいいかな。酒とかのほうがいいかもしれぬが」

「いいんでない? 酒は時がかかるし」

 どうやら自分たちの弁当ではなく、羽衣への手土産のようだ。とりあえず、鬼っ子は惟道の横に立って、夕餉の用意を手伝った。
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