あやかしあやなし
「でもまぁ、大分表情が出るようにはなったかな?」

「そう。この三、四年余りでも、そう思うほど変わったでしょ? 僕が初めて会ったときの惟道は、もう本当に人じゃないみたいだった。怖いぐらい」

 当時の惟道を思い出しただけで身震いする。別に何をされたわけでもないのに、ただ存在自体が不気味だった。

「あの頃に比べれば、惟道は大分人らしくなった。僕はそれは嬉しいことだと思うけど、依巫としての能力的には、良いことではないんだろう」

「ああ……。空っぽのほうが、色々降りやすいから」

 納得、というように、小丸が頷いた。

「でもそれは、人としては必要なことだよ。人らしくあればあるほど器としての能力は低くなるけど、別に惟道は依巫として生きてるわけではないんだから。むしろあんまり器の能力が強すぎるのは、人として良くない。だから道満殿も、惟道を心配したのだし」

「じゃあ惟道が普通の人だったら、雛が回復するまでなんて入れてられなかったってことか」

「いや、まぁそんなことはないと思うけど、雛も居心地は良くなかったと思う。息を殺して気配を消しておかないといけなかっただろうし、そんなんじゃ回復もままならないでしょ」

 もっともそれは、中の物の怪が器を気遣った場合のことで、そこまで物の怪に好かれる人などほぼいないのが現実だ。

「でも章親も物の怪に好かれるじゃないか。章親の中でも、居心地は悪くなさそうだよ」

「そんなことは俺が許さん」

 軽い小丸の思い付きは、間髪入れずに惟道に粉砕される。
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