あやかしあやなし
「あいつは一体、何だったんだろう?」

 小丸が首を傾げた。

「結局鬼でもなかったってことなのかな。でも人ならざる力は持ってたし、人ではなかったよね」

「恨みの権化ってところかな」

 惟道が、北の空を仰ぎつつ呟いた。

「奴の父親である外道丸も、女子の恨みで姿が変わってしまったと言っていたではないか。人の恨みとは、それほどの力があるということだ」

「なるほどね……。外道丸も女子の恨みの権化、それが子にまでと思えば、可哀想だね」

「母の腹の中におるときは、普通の赤子だったやもしれぬなぁ」

 外道丸の最後の恨みを腹に受け、その時点で鬼っ子は姿が変わってしまったのかもしれない。

「その邪悪な部分が体のどれ程を占めていたのかによって、今後の奴も決まるだろう。今は単に火傷の傷のみと思う。それの治療が上手く効けば回復もしよう」

 ほほ〜う、と感心したように、小丸が声を上げた。

「そういう目に見えない心とかに関することは、惟道鋭いよね。自分のことには鈍いのに」

 ぷぷぷ、と笑いつつ、小丸は、さて、と伸びをすると、章親を振り向いた。すでに都の雑踏からは外れ、日も大分西に傾いている。

「ここまででいいよ。あんまり遠くなると、章親も困るでしょ」

 そう言って、くるりと宙返りする。たちまち小丸は大きな狐になった。

「じゃあ気を付けて。惟道、何かあったらすぐに言うんだよ」

 やはりくどくどと心配をし、章親は何枚かの式を惟道に手渡した。

「式は物の怪たちのおもちゃになってしまう」

 以前も章親に式を貰ったが、たちまち物の怪たちの餌食になった。式は紙なので、加減を知らない物の怪が思い切り遊ぶとあっという間に細切れの屑になってしまう。
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