あやかしあやなし
『章親の式は、なまじ質が良すぎるからさぁ、皆欲しがるんだよね。惟道が何とか一、二枚死守したけど』

 小丸が、ぷくく、と前脚で口を押さえて笑う。

「えっ、そうなの? 気にしたことなかったなぁ。式ってそんなに面白いものなの?」

『まぁ珍しくはあるかな。皆、好奇心旺盛だからね。珍しいものには目がないのさ』

 そういう小丸も珍しいもの好きだ。

「これからは雛が文使いをしれくれることだし、雛が慣れるまでは鴆が運んでくれよう。罠がなくなったのなら、皆自由に行き来できる」

『鴆なんて怪鳥、おいそれと都にやらないでよ。大騒ぎになるよ』

 若干呆れながら、小丸は尾で惟道を促した。

「じゃあ、またね」

「今後は月一ぐらいで都に出ようと思う」

 小丸の背に乗りながら、惟道が言った。え、と章親が身を乗り出す。

「雛も人に慣れたほうがいいし、鬼っ子の様子も気になる」

『おやおや、惟道にしては珍しい。鬼っ子を気にするなんて』

「鬼っ子は鞍馬におる。いずれ雛が帰るところぞ。その後の経過を知らねば、おいそれと帰せん」

 しれっと言う惟道に、やれやれ、と小丸は小さく首を振った。やはり惟道にとっては鬼っ子よりも雛のほうが大事らしい。

「まぁ、その辺りは僧正坊様が知らせてくれるだろう。うちより惟道のところのほうが行きやすいかもだし、都に出て来たら寄ってよね」

「もちろん」

 こっくりと章親に頷くと、惟道は北の空を見上げた。そのうち鞍馬山にも行ってみようと思い、腕の中の烏鷺に目を落とす。不思議な縁で、自分の世界が広がってゆくのを感じながら、惟道は小丸と共に、一陣の風となって一路化野に駆け去っていった。


*****終わり*****
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