あやかしあやなし
ーーーまぁ章親も好きこのんで人のところに式神を放ったりする奴ではないしなーーー

 心配性で優しげな面影を思い出す。都はなかなかよろしくない気の強いところだ。政治の中心なのだから仕方ない部分もあるのだろうが、いろいろな陰謀が渦巻いている。そこから発せられる気は尋常ではない。

 安倍家は役目柄、宮中に出向くことも多い故、そういった気に触れる機会も多くなる。自然と浄化できるほどの力を持っている章親ならともかく、安倍家の人間は章親だけではない上に、そこまでの浄化能力を持つ者もそういない。毎日章親が屋敷中を浄化して回るとはいえ、人一倍気を取り込みやすい惟道は、気付かぬうちに良くない気を身体に取り込んでしまう。それが積もり積もれば身体にも良くないであろうし、穢れの多い都では、何に取り憑かれるかわかったものではない。

 ということで、惟道は都から遠く離れたこの化野の地に赴いたわけだが。初めは章親が反対したものだ。
 化野といえば葬送の地であるので、普通であれば行きたい地ではない。だがその頃知り合った鳥の物の怪の鴆が教えてくれた。都から一番離れた化野は、葬送の地とはいえそもそも人が来ない。その分荒涼とはしているが、都にほど近い鳥辺野のように骸が溢れかえっているわけでもなく、力の弱い物の怪にとっては住みやすい地なのだと。
 そしてそこに建つ古い寺に、風変わりな坊主が一人、物の怪たちと暮らしているとも。

 安倍家でも小さな物の怪は結構いた。が、やはり都の中では小さな物の怪たちは落ち着かないらしく、遊んでいてもいきなり消えたりする。安住の地ではないわけだ。
 安倍家のように結界が施されていなくとも、物の怪が楽しく暮らしているなど、どのようなところかと、人より物の怪に近い惟道が思うのも自然な成り行きだった。鴆にいろいろ話を聞き、章親を説得し、この地に移り住むことに決めたのだ。
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