あやかしあやなし
ーーーもうちょっと、術を学んでおけばよかったかーーー

 じ、と井戸の水面を見ながら思う。いつもであれば、こういうことがあれば鴆に文でも頼むことができようが、どうやら都の物の怪狩りというのは結構な激しさのようだ。そんなところに使いを頼めば、鴆の身が危険だ。人間に対しては、さして何の感情も抱かないが、物の怪に対しては何故か肩入れしてしまう惟道なのだ。

「惟道、どうしたのさー」

 小丸が、ててて、と駆け寄ってくる。一緒に寄ってきた物の怪が、水汲みを手伝ってくれた。

「物の怪狩りが気になってな。他にもああいう目に遭っている者がいるかもしれん。章親に聞いてみようと思ったんだが」

「ああ、あの人」

 小丸は惟道がここに来たときに、送ってきた章親に会っている。ちなみに安倍家からもかなり遠いこの地にまで送り届けることを強固に申し出たのは章親である。よほど心配だったらしい。

「でもそれだけのために、わざわざ都まで行くのもな……」

 この地から一条の安倍家まで赴くとなると、一日仕事だ。いつ行っても会えるわけでもなかろうから、悪くすれば無駄足になるかもしれない。

「式神の作り方ぐらい、教えて貰っておけばよかったな」

「ここでそんなもん作っても、たちまち物の怪たちのおもちゃになるのがオチだよ」

 ぺらぺらの紙で作った式神など、小さな物の怪たちの格好の遊び道具だ。作った側から物の怪に捕まるだろう。

「おいらが行ってあげようか」

「小丸だって安全とは言えまい」

「あっ失礼だな~。妖狐と物の怪を一緒にしないでよ」

 妖狐というのは段階を踏んで、神に近くなれる妖怪だ。皆が皆そのような力を有しているわけではないが、単なる物の怪とは一線を画しているのも事実である。人に化けるのも妖力も、普通の物の怪とはだんちの差だ。

「京の人間は、妖狐にゃおいそれと手を出したりしないよ」

 稲荷の総本山である伏見稲荷を持つ京だ。お狐様を無碍にはしまい。
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