あやかしあやなし
「我からしたらおぬしなんぞ、まだまだ泥臭い物の怪じゃがな。なるほど、力はなかなかあるようじゃ」

 声と共に御簾の下から、にゅ、と錫杖が突き出され、そのまま御簾を持ち上げる。姿を現したのは、目を見張るほどの美女だ。が、一目で人外だとわかる。床にとぐろを巻いているのは銀色の髪だし、瞳も左右で色が違う。

「我は魔﨡(まに)。章親の御霊、龍神じゃ」

「え、御霊? ええ? あんたの御霊が、この人なの?」

 小丸が章親と魔﨡を交互に見ながら言う。いかにも優しげな章親と、いかにも尊大な龍神。どう見ても主従関係は逆だろう。

「何じゃその反応は。章親は我のあるじぞ。敬えよ」

 自ら章親があるじだ、と言うわりには、魔﨡は奥から出ると、そのまま皆より上座に陣取り、脇息にもたれかかる。あるじよりも態度がでかいのはいいのだろうか、と章親を見ると、困ったように笑っている。

「まぁ、魔﨡のことは気にしないで。で、どうしたの? 何か急用? そういえば、凄い荷物だね」

 ようやく各々腰を落ち着け、章親が小丸に問いかけた。

「惟道は元気?」

 こくん、と頷き、小丸は、ちら、と守道を見た。
 以前寺に来た時の章親の様子から、章親は物の怪狩りなどしないだろうとは思う。現に安倍家には小さな物の怪が沢山いた、と惟道が言っていた。
 だが守道はどうだろう。小丸を見る目にも別に妙なところはないから大丈夫だろうとは思うが。

「都で物の怪狩りが行われてるって聞いて」

「物の怪狩り?」

 少し考え、章親は守道を見た。

「そういや何か陰陽寮の若手が、そんなこと話してたような。てっきりそういう仕事が来てるのかと思ってたが」

「あっ、もしかして、うちの物の怪たちが何か怯えてたのもそのせいかな」

 章親は陰陽師ではあるが単なる人間なので、物の怪は見えても、はっきりと人語を喋るものでないと、意志疎通はできない。物の怪のほうが必死で訴えれば、何となくわかることもあるのだが。物の怪との意志疎通は、惟道のほうが上なのである。
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