あやかしあやなし
 これはまたややこしい。ともあれ瀕死の雛を救おうというのであれば、そうゆっくりもしていられないだろう。

「そういうことであれば、紺、行ってやるか」

 守道が言うと、紺が立ち上がり、回廊に出た。

「御霊をそんなに遠くにやって大丈夫?」

 章親が聞くと、守道は軽く肩を竦めた。

「なに、紺もたまには里帰りしたいだろうし、呼べばすぐに帰ってくるんだ。問題なかろうさ。大体、常にべったり傍にいる御霊なんぞ、お前のところぐらいなものだぞ」

「そ、そっか。龍神って姿が消えないものなのかもね」

 陰陽寮の他の者の御霊も、紺のように普段は姿が見えない。式神同様、常に傍にいないとならない存在ではないため、基本的には呼ばない限り現れないのが普通だ。が、章親の御霊である魔﨡は、まるで人のように、常にそこにいる。

「いや、お前の傍がいいんだろうよ。それでなくても、お前はそれが普通だろ」

 ちょい、と守道が差すほうを見れば、回廊の端に童女が控えている。この童女は楓という。元々は紙で作った式神だ。
 だが普段からまるで普通の女房のように、章親の身の回りの世話をしている。章親が、一旦作った式神を、用が済んだから消す、といったことをしないからだ。

「そっか。僕の周りには消えたり現れたりする人がいないから、式だったり御霊だったりの感覚が鈍ってるのかもなぁ」

「式だろうが御霊だろうが、同じように接するってのはいいことだぜ」

 だからこそ、式神も御霊も章親によく懐くのだ。物の怪も然り、なのだが。
 そんな二人を若干妙な目で見、小丸は持ってきた風呂敷包みの中から小さく綺麗な竹籠を取り出すと、紺に続いて部屋を出た。
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