あやかしあやなし
『こんな親切な友達がいるんだったら、実体で来れば良かったかな』

「ここまで来るのは、実体では無理であろう」

 人の足では都から化野までかなりの距離だ。移動だけで一日仕事になる。
 そんなことを話していると、一反木綿のようにふよふよ浮いていた章親が、ふと顔を上げた。

『あれ、ちょっと待って』

「どうしたのだ? 小丸、ちょっと待て」

 止まった火鼠の少し前で、小丸がつんのめりながら急停止する。

『何かいきなり空気が変わった。……うーん、ちょっと失礼』

 言いつつ章親は、ふわりと火鼠の上に降り立ち、目を閉じて印を結んだ。その口から短い呪がこぼれ、組んだ手が淡い光を放つ。その光が蛍のように、いくつかの小さな玉になって、四方にふわふわと飛んで行った。

『この辺りにいるかも。式じゃなくて気だから、多分陰陽師だとは思わないと思うんだけど』

 心配そうに、光の行方を目で追う。惟道も火鼠から降り、辺りに目をやった。

「穢れといっても、俺に憑いていた鬼とは違って純粋な血だからな。そこまで強い穢れを感じることはない」

『そっか……。言われてみれば、そうだよね』

 以前惟道に憑いていた鬼は、惟道の血を穢れとしていたのだが、その鬼自体が邪悪なものであったので、媒体である惟道の血自体もかなりの穢れを持っていた。
 が、通常ただの怪我等で流れる血は、そこまでの穢れではないのだ。

「そう思うと、あの頃はつくづく俺自身が穢れていたのだな、と思う」

 惟道がため息をつく。そういえば、鬼を身の内に飼っていた頃は、こんなにいろいろな物の怪を見なかった。穢れのついたもの全てに食い付くような邪悪な鬼を宿した者など、物の怪からも敬遠されるということだ。
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