あやかしあやなし

　感情がないということは憑坐(よりまし)に最適だが、惟道ほどの感情のなさではあらゆるものを取り込みすぎて自滅の危険がある。それを見抜いた外法師が惟道を拾い、無理なく自然に自衛できる術を教えてくれた。

　だがその育ててくれた外法師が亡くなった途端、京での活躍を目論む兄に連れられ、京の北、白川に移り住んだ。その際、兄は惟道にある恐ろしい術をかけた。元々実の息子である己よりも、どこの誰かもわからぬ惟道のほうが父に目をかけられていることを苦々しく思っていた兄は、惟道を餌に、人喰い鬼を召喚したのだ。

　兄の目的は、召喚した鬼を使役し、自分に都合の悪い者を始末すらことであるのだが、人喰い鬼を使役するなど、そうそうできることではない。そこで己の犬である惟道に、鬼の印を描くと同時に結界も施した。印のある者を喰うよう召喚された鬼は惟道を狙うが、惟道には結界に阻まれて近付けない。

　ただ惟道自身を喰えなくても、惟道の血がついた者であれば鬼は狙うのだ。それを利用し、兄は宮中に繋がる者を狙ったのだが、生憎長年京から離れて宮中のことなどと無縁に暮らしてきた身では、『宮中に繋がりのある者』などわからないし、ましてその者に渡りをつける手があるわけでもない。京の一部の貴族を恐怖に陥れることには成功したが、結局目的の内裏には何の打撃も与えられず失敗した。