あやかしあやなし
『あれは仕方ないよ。惟道が望んだことではないんだし。それにまぁ、あの鬼のお陰で僕らが知り合えたとも言えるわけだしね』

 にこ、と章親が笑う。ふ、と惟道も僅かに口角を上げた。
 人に興味のない惟道だが、章親に出会えたことには感謝する。章親の綺麗な空気のお陰で、惟道の中の穢れもすっかり洗い流された。

「章親の傍にいれば、あの雛の具合も良くなろうに」

『いや、怪我には効かないと思うよ』

 何となく間抜けな会話を、火鼠は不思議そうに聞いている。人より大きく物の怪寄りとはいえ、惟道はれっきとした人間であろうに、物の怪だらけのこの状況にも動じず、物の怪の心配をする。
 術師でもない惟道よりは免疫があろうが、章親だって普通の陰陽師とは物の怪に対する感覚が違うようだ。ある程度物の怪に慣れているとはいえ、陰陽師というのは物の怪を下に見るものだ。人と同じように(しかも知り合いのように)心配するなどあり得ないのだが。

『妙な人間もおるものじゃの』

『優しい人は、持ってるものも綺麗になるものなのよ』

 知ったように、小丸が何故か胸を張る。

『おぬし、あの陰陽師とはそう親しくもないじゃろ。惟道の綺麗さは、あの陰陽師あってのものじゃろが』

『惟道はほとんどおいらたちと同類じゃない。章親が綺麗なのは、気を読めるものならすぐに気付くよ』

 惟道とてれっきとした人間なのだが、小丸は物の怪の括りに入れているようだ。物の怪から見ても、惟道は物の怪っぽいということか。
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