あやかしあやなし
 そんなことを言っているうちに、章親と小丸が同時に顔を上げた。ずっと先の木立の中に、先ほど飛ばした光が集まっている。

『血の臭いがする』

 小丸が叫び、たた、と駆け出していく。小丸の姿が生い茂っている草の中に隠れたかと思うと、ぴょこ、と尻尾が突き出された。目印か。

『いたよー! いたいた』

 小丸の声に、惟道も駆け出した。火鼠も惟道の横につきながら、ちらりと視線を動かす。

『奴はおぬしを陰陽師と思っておるのではなかったか? 姿を見せれば、またどこぞへ逃げ去ってしまうかもしれぬぞ』

「そんなことはさせぬ」

 思わぬ強い言葉に、火鼠は少し目を丸くした。

「早く確保せねば、雛の命が危ない」

『……確かにの』

 納得し、火鼠は速度を上げ、惟道よりも先に茂みに突っ込んでいった。

『小丸よ、雛の様子はどうじゃ?』

『わかんないよぅ』

 惟道が現場につくと同時に、烏兎がいきり立つ。

「陰陽師め! 懲りずにまた来たか!」

 惟道の後ろで、章親がちょっと困った顔をした。が、惟道は威嚇する烏兎など無視し、足元の小さな雛の傍に膝をつく。

「寄るでない! 触るなぁっ!」

「やかましい!!」

 惟道の一喝が飛び、しん、と空気が止まった。普段物静かな惟道が声を荒げるなど珍しい。初めてといっていいかもしれない。
 固まってしまった空気などやはり気にもせず、惟道は屈み込むと、蹲っている雛に、そろ、と触れた。
< 41 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop